カンパニーウィーク94詳細レポート

ロンドンで行われた即興演奏の哲学者ともいうべき、カリスマ的存在の、
デレク・ベイリーが主催するカンパニーウィーク94から帰って来た。
この催しは、1976年デレク・ベイリーとトリスタン・ホンジンガーのデュ
オからスタートした。その翌年の77年からカンパニーウィークとし、フリ
ーミュージックのフェスティバルとして18年間続いている。
昨年、初めてロンドン以外の場所、山梨県の白州で行われたカンパニーウィ
ーク白州に出演したのがきっかけで、ぼくはロンドンに招待された。

■7/25
カンパニーウィーク1日目
はじまる前、メトロファルスなどで活躍する横川理彦に会う。ティポグラ
フィカの今堀や外山とヨーロッパでいくつか公演を終えて、ロンドンで一
息ついているところだという。
クリス・カトラーとかティム・ホジキンソンつったけ、その辺の人たちが
続々やってきた。
会場は、ロンドン大学の近くにあるコンテンポラリー・ダンスの劇場ザ・
プレイスというところ。
ロビーではINCUSのレコードやCDが売られ、いままでのカンパニー
のビデオを流していた。
劇場は200席ほどだが、きれいな赤いシートでなかなかゆったりしてい
る。席がゆるやかな雛壇になっていて、みおろすように見る。ステージは
フラットでけっこう広い。
●まずは、フレッド・フリスのギターソロ
ネックにもピックアップがついているギターが、まるでいたぶられていく
かのような演奏。爪弾き、引っ掻き、引っ張り、プラシで擦り、缶の蓋を
ピックあっぷの上でかたかたと弾ませ、その上で弓を引く。そしてドラム
スティックで弦を叩き、さらに弦の間に挟み、米粒をふりかける。お馴染
みのプレイだが、もう熟達の域に達している感じ。40分近くあきさせな
い。
休憩
●デニス・パルマー KEYBOARDS
ボブ・スタグナー DRUMS
ロジャー・ターナー DRUMS
スティーブ・ベレスフォード KEYBOARDS,TOYS

スティーブが特におかしい。カシオトーンのサンプリングキーボードや、
ボイスチェンジャーキーボードなど小さなキーボードのオンパレード。そ
の間にありとあらゆる小物のおもちゃが登場する。観客の目はついついス
ティーブにそそがれてしまう。デニス・パーマーもカシオのボイスチェン
ジ付きカシオトーンにおかしな声を通してあげながら、コルグの707の
キーボードを叩く。かなり長めの演奏。終わりそうでなかなか終わらない。
P.S.スティーブ・ベレスフォードが10月下旬に初来日します。

■7/26
カンパニー2日目
今日の出演は、
田中泯 ダンス
ウィル・ゲインズ タップ
デレク・ベイリー ギター

●まずはデレクと泯のデュオ
昨年白州の山中、山の中に設けられたステージで、虫の音をバックにこの
ふたりのデュオを観た。そのさわやかな感じとは、今日は違う。肉体はひ
ねられた空間を通るかのようにデザインされていく。デレクはまったくの
生の演奏。舞台の四角をさりげなく移動する。

●デレクとウィルのデュオ
ウィル・ゲインズはデレクより年上の有名なジャズタップ・ダンサー。いっ
たいどの様になるのか興味深々。デレクもウィルもお互いの提示するリズ
ムをうまくやりとりしている。とても面白い。黒人らしいショーマンぶり
もところどころ合わないものが出会うのがまたおかしい。
休憩
●デレク、ウィル、泯の3人
はっきりいってとんでもない組み合わせ。これを可能にしてしまうのが、
デレクのオーガナイザーとしての手腕か。すごいものをみれた。
この組み合わせだとウィルは音楽よりになる。

■7/27
カンパニー3日目
この日の出演は、
巻上公一 ヴォイス
アレックス・ワード クラリネット/サックス
トリスタン・ホンジンガー チェロ
デレク・ベイリー ギター

●巻上、アレックス・ワード、トリスタン・ホンジンガーのトリオ
アレックスは弱冠二十歳の新鋭、トリスタンはカンパニー創始者のひとり、
そして謎のわたし。お互いがどんなことをするのかわからずはじまるのは
なかなかスリリング。ぼくが猫みたいな声をだすと、トリスタンがチェロ
を弾きながら同じような声を出す。アレックスはまだうまくのれない様子。
●デレク、アレックスのデュオ
なんだか孫とやっているよう。アレックス終わって落ち込んでいる。
休憩
●巻上、トリスタンのデュオ
不思議声でのやりとり。ジブリッシュの掛け合い。
●トリスタン、デレク
お手本のような演奏。素晴らしい。
●アレックス、巻上
子供の喧嘩のような掛け合い
●巻上、デレク、アレックス、トリスタン
やはりデレクがはいるとしまる。

■7/28
カンパニー4日目
ここからが、いわゆるカンパニーのやりかた。
メンバーは、
田中泯
ウィル・ゲインズ
巻上公一
デニス・パルマー
トリスタン・ホンジンガー
フレッド・フリス
アレックス・ワード
デレク・ベイリー
この8人のメンバーの組み合わせをはじまる直前に決めて演奏をするとい
うやりかたである。
相談したりなれ合ったりせず、即興のもっとも大切な緊張を維持するため
の方法だと思う。
演奏時間は、自由だが、だいたい10分から20分の演奏をしてほしいと
のこと。
●ウィル・ゲインズ、トリスタン・ホンジンガー
 ウィルおじさんは、デレク以外の人とやることをたいへん恐れていた。
一番デレクに近いトリスタンとまずは組んだ。
●田中泯、アレックス・ワード、フレッド・フリス
いきなりアレックスのクラの調子が悪くなったが、フレッドの弦さばきに
泯さん快調。
●巻上、デニス・パルマー
デニスはボイスの勝負を仕掛けてきた。しかし奴はエフェクターとアンプ
ででかい音。こっちはマイクはあるがちゃんとしたモニターがないのでほ
とんど生声状態。くやしいので全編生声で歌いまくる。デニス持久力ない。
休憩
●デニス・パルマー、デレク・ベイリー、トリスタン・ホンジンガー、田
中泯、フレッド・フリス
デニスとぼくのが10分で終わったら、フリスが20分やらなきゃプロじゃ
ないぜ、なんてジョークを言うものだから、このセット計ってみたら、ちょ
うど20分だった。
ところが、フリスは時計を持っていた。
●ウィル・ゲインズ、アレックス・ワード、巻上
なかなかタップのパルスがつかめなかったが、なにかやればタップがつい
てくるがおかし
い。トリオだとウィルはむずかしそう。

■7/29
カンパニーウィーク5日目
●アレックス・ワード、巻上、デレク・ベイリー、田中泯
モニターをつけてもらったので俄然やりやすくなる。デレクとやるとちが
うものが見えてくる。
●フレッド・フリス、ウィル・ゲインズ
ばっちりうまくいっていた。
●デニス・パルマー、トリスタン・ホンジンガー、巻上
バカ声3人衆。モニターをいれたが、デニスの挑発にのらないよう注意す
る。口に油紙をつけてブーンとやるのをやっていたら、最後に紙をもった
ところで残りのふたりがやめてしまった。紙を持って横目でふたりを見た
ところで終わった。爆笑。
休憩
●フレッド・フリス、アレックス・ワード、デニス・パルマー、巻上
せっかくいいところで前がおわったので、紙を持ったポーズからはじめる。
バカ受け。
●デレク・ベイリー、トリスタン・ホンジンガー
すごい。
●デニス・パルマー、田中泯、ウィル・ゲインズ、トリスタン・ホンジン
ガー
もの凄いスピード感。ウィルはタップをやめて、板を椅子に渡してスティッ
クで叩き始め
た。もうほとんどドラマー。泯さん凄まじいバカ踊り。最高。

■7/30
カンパニーウィーク6日目
いきなり最初のアナウンスをやらされる。気持ちの用意がなかったのであ
せる。デレクに原稿を書いてもらいそれを覚えた。
「みなさん、こんばんは」といってでていったので、会場をまちがえたと
思った人がいたかもしれない。
●アレックス・ワード、ウィル・ゲインズ、デニス・パルマー、フレッド・
フリス
もう気心がしれてきた様子。落ちついている。
●巻上、フレッド・フリス、アレックス・ワード
アレックスぐっとよくなる。
●デニス・パルマー、田中泯、デレク・ベイリー
泯さん今日もすごい踊り。
休憩
●巻上、トリスタン・ホンジンガー、デレク・ベイリー、田中泯
大御所に食い込むのは大変。でも最高の至福。
●デニス・パルマー、トリスタン・ホンジンガー
演奏というよりほとんどディベート。しゃべりっぱなし。
●ミュージシャン全員
うるさくならず波のようにうまく出入りして、気持ちよかった。
●田中泯、ウィル・ゲインズ
最後はダンサーふたりのデュオ。
ウィル・ゲインズさすがに疲れ気味。やはりこの組み合わせはシュール。
すべて終了、拍手。
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